デッドライン

千葉雅也『デッドライン』を読み終えた。

デッドライン

デッドライン

  • 作者:千葉 雅也
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: 単行本
 

修士論文のデッドラインが迫るなか、「動物になること」と「女性になること」の線上で煩悶する大学院生の「僕」。高校以来の親友との夜のドライブ、家族への愛情とわだかまり、東西思想の淵を渡る恩師と若き学徒たる友人たち、そして、闇の中を回遊する魚のような男たちとの行きずりの出会い―。

哲学者が小説を書くとこうなるのか。小説と哲学書、二つを合わせた散文集のような本だった。「デッドライン」というルビが「締め切り」とそのすぐ後に出てくる「死線」という言葉に振られている。修士論文を「締め切り」にまで出せそうにない主人公の僕は、「死線」を越えようとしている。

主人公はいけすかない感じであった。子どもの頃から成績が圧倒的に良く、ピアノが弾けて、クラシック音楽に造詣が深く、父親は社長で(修論提出が不可能になったのと同時期に自己破産した)、実家は大きな家で、一人暮らししている家も広く、車を持ち、高そうな服を着て、おしゃれな店でおしゃれなものを食べ、でもバイトはしていない。

主人公の名前は明らかにされておらず、〇〇くんとされている。きちんと名前の出てくる登場人物もいるし、〇〇くんが一番の親友だと思っている人物はKとされている。どうでもいい人とそうではない人の区別なのかなと思った。

一人称で物語は進むが、途中で唐突に三人称から語られたりする。名前のこともそうだけどすごく自由だ。説明的な描写もないし、小説という枠に囚われていない感じがする。自由に、囚われずに。それは主人公が捕まえることができない男たちのようでもあるし、悩みや困難をするりと抜けていく主人公自身のようでもある。